研究領域の現状 227
永 田 央(准教授) (1998 年 3 月 16 日着任)
A -1) 専門領域:有機化学,錯体化学
A -2) 研究課題:
a) 金属錯体と有機色素を用いた光励起電子移動系の開発と触媒反応への展開 b) 金属錯体を用いた光合成酸素発生複合体のモデル研究
c) 空間制御された大型有機分子内での電子移動
A -3) 研究活動の概略と主な成果
a) ビピリジン・ターピリジンの二成分結合型配位子を新たに開発し,コバルト ( I I ) 錯体の合成を行った。この研究の目 的は,ポルフィリン・コバルト錯体結合化合物の光励起電子移動系を構築するにあたって,コバルト錯体の酸化数 が変化しても構造を保持できるキレート型配位子を開発することである。このため,二成分を結合するのみならず, 第三の成分を結合する官能基も導入した。メチレン鎖の長さの異なる化合物と,それぞれのコバルト (II) 錯体を合成 し,期待通り二成分が同じコバルトイオンに配位した単核錯体が得られた。また,電気化学測定から,メチレン鎖の 長さによって酸化還元挙動が異なることが示唆された。
b) 植物の光化学系 I I タンパク質複合体の酸素発生部位に合成マンガン錯体を結合する実験を行った。植物から抽出し たタンパク質からマンガンイオンを取り除き,合成マンガン錯体を結合させたところ,前年度に開発したトリアリー ルメシチレントリカルボン酸配位子のマンガン ( I I I ) 錯体について,高い酸素発生活性が見られた。錯体が結合した 際に起きる構造変化を検出するため,配位子にフッ素原子を導入し,
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F N M R を測定したところ,非常に低濃度で あるにも関わらず,配位子由来のシグナルが明瞭に観測された。この方法は,光化学系 I I と合成金属錯体の相互作 用について研究するための強力な手段となることがわかった。
c) キノン結合デンドリマー・ポルフィリン・ニトロキシドラジカル(T E M PO)が順に結合した三元系分子を合成した。 この研究の目的は,これまで展開してきたキノンプール分子の化学と,T E MPO・ポルフィリン・キノンを用いたアル コールの光酸化反応を組み合わせることであり,アルコールを電子源としたキノンプールの光化学的還元反応を目指 している。デンドリマー部分のアミノ基とポルフィリン部分のカルボキシル基を独立に保護・脱保護してキノン・ T E MPO をそれぞれ結合することで,三元系分子の合成に成功した。
B -1) 学術論文
T. NAGATA, S. K. ZHARMUKHAMEDOV, A. A. KHOROBRYKH, V. V. KLIMOV and S. I. ALLAKHVERDIEV,
“Reconstitution of the Water-Oxidizing Complex in Manganese-Depleted Photosystem II Preparations Using Synthetic Mn Complexes: A Fluorine-19 NMR Study of the Reconstitution Process,” Photosynth. Res. 98, 277–284 (2008).
B -4) 招待講演
T. NAGATA, Y. KIKUZAWA, T. NAGASAWA and S. I. ALLAKHVERDIEV, “Single-Molecular Quinone Pools: An Approach toward Photosynthetic Energy Conversion from Organic Chemistry,” Photosynthesis in the Global Perspective, Indore (India), November 2008.
228 研究領域の現状
T. NAGATA, Y. KIKUZAWA, T. NAGASAWA and S. I. ALLAKHVERDIEV, “Single-Molecular Quinone Pools: A Synthetic Model of Biochemical Energy Transducer,” The IUMRS International Conference in Asia 2008, Nagoya, December 2008.
B -7) 学会および社会的活動 学協会役員等
日本化学会東海支部代議員 (1999–2000). 学会の組織委員等
International Meeting “Photosynthesis in the Post-Genomic Era: Structure and Function of Photosystems” 組織委員 (2006).
学会誌編集委員
Biochimica and Biophysica Acta, “Photosynthesis” Special Issue, Guest Editor (2006).
Photosynthesis Research, “Recent Perspectives of Photosystem II” Special Issue, Guest Editor (2008).
B -8) 大学での講義,客員
総合研究大学院大学物理科学研究科 , 「化学エネルギー変換論」, 2008年 7月.
B -10) 競争的資金
萌芽研究 , 「無機ナノ粒子を包含する単一分子素子を用いた光合成物質変換」, 永田 央 (2003年 –2004年 ).
特定領域研究(公募研究), 「デザインされた空孔を持つ有機分子と金属ナノ粒子の1:1複合体の調製」, 永田 央 (2004年 –2005年 ).
基盤研究 (C ), 「人工キノンプールを用いた光合成物質変換系の構築」, 永田 央 (2007年 –2009年 ).
C ) 研究活動の課題と展望
研究課題 ( c) が本グループの独自の成果として認知されつつある。光合成の人工モデル系の研究は多いが,キノンプールを 対象としたものは類例がない。還元体キノール(ヒドロキノン)は物質・エネルギー変換の中間生成物として鍵となる化合物 であり,この化学を追究することで新しいエネルギー変換の形が見えてくるものと考える。
一方,現状の化合物は,デンドリマーの構造に依存しており,キノンプールを間にはさんだ多段階のレドックス反応を駆動す るには適していない。異なるレドックス反応を同時進行させるためには,これらが空間的に離れていて間にキノンプールが存 在しているという構造が実現されなくてはならない。このためには,キノンプールの骨格自体を見直す必要がある。この点に ついては現在鋭意検討中である。